第7回
『雇用と貧困』
〜同一価値労働同一報酬を〜
昨年から、世界同時不況の影響を受けて派遣切りやリストラなど、日本の雇用環境も大きく変化し始めてきました。しかし、不況はきっかけであって、規制緩和が進み、派遣などの非正規労働者が増加した結果、いずれこういった状況がくることは予想できていたことです。
私自身も二つの問題に直面しました。非正規の問題と男女間の格差の問題です。子育てが一段落し再就職活動が始まったとき、社会の雇用環境が大きく変化していることに気づき、そして多くの壁に直面しました。パートで働いた会社では、正社員と同じ仕事をしているのに給料が3倍違っていました。まったく同じ仕事をしているのにあまりにも違う年収の差に納得がいかず、就職活動をして何とか正社員としての次の職を見つけました。しかしそこでは、男女間の処遇の格差の壁に直面しました。女性のポジションは事務職しかなく、昇格制度や研修制度もなく、自分が仕事を教えた新入社員の男性が数年後には上司になっていくのです。
昨今の派遣切りの問題は、貧困の問題でもあり、メディアにいい意味で露出され可視化されてきました。今マスコミでクローズアップされているのは男性のワーキングプアですが、統計的に見て女性の方が圧倒的に多いのが現状です。派遣切りの問題から、男性にも貧困が及んで初めてマスコミが取り上げるようになりましたが、本来非正規の問題は女性の問題だったのです。
なぜあまり問題視されなかったのか、これには構造的な問題が存在しています。103万円以下の扶養範囲内で働くことが税金対策となっていたことや、性役割分業意識が払拭されない社会的な意識や、男性が標準モデルになっていて、女性が多く働いている分野では賃金設定が低く抑えられているという現状があるのです。女性の賃金は男性の6割という統計があり、貧困ラインと言われる年収200万円以下で暮らす人々の74%を女性が占めています。にもかかわらず、女性の貧困はあまり見えていません。そこには、社会的な差別構造意識が浸透しているのだと思います。正規社員と非正規社員の割合も、男女雇用機会均等法が制定された1985年には女性でも正社員が68.1%いたのに2005年には47.3%、この20年で正規と非正規が逆転しています。
一方、非正規雇用の問題は、企業だけでなく行政においても福祉職や事務職において非正規雇用の率は増加し、正規職員のみではもはや現場は回らない状況です。労働者に占める非正規率は37.8%にも高まっており、景気の悪化で職を失った非正規社員は20万人を超えており、年越し派遣村がこれを象徴していると言えます。更に、生活保護や児童扶養手当、教育援助、雇用保険、医療保険などさまざまなセーフティネットが崩壊し、更なる貧困が直撃しています。
現代社会の孤独死問題は、セーフティネットの崩壊だけではなく、人とうまくコミュニケーションがとれない人が増加し、希薄な人間関係の中で最後のセーフティネットの望みを断ち切られ、助けてと言えなかったのだと思います。これらへの対策のひとつとして、正社員・パート・契約社員などの雇用区分を取り払い「同一価値労働同一報酬」というILO100号条約の考え方を取り入れるべきです。条約に批准はしていても、40年たっても労働現場では活用されていません。また、規制緩和が進んだ結果、労働市場では人が材料として扱われるようになってしまいました。仕事をするのは人なのです。人は「人財」として扱わることで能力を発揮することができ、結果が出せて、その利益が還元され、ひいては日本の国益にも繋がると考えられます。
働くことは生きることそのものであり希望でもあります。賃金労働者としてだけでなく「生活者」として生きる姿を示していく必要があります。規制緩和がもたらした功罪に今こそ軌道修正を掛け、社会的な差別構造を抜本的に解決する対策が喫緊の政治的課題だと思います。
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