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仕事と社会のこれからを考えるリポート&アクションマガジン
「きゃりあ・ぷれす」vol. 155
2004・1・28(水)発行
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■INDEX■
【特集企画】天職を探せ 第11回
時代が求める本物の食をあなたに
(有)ナチュラルハーモニー代表
河名秀郎さん(前編)
◆無肥料栽培の“魔力” 答えは身近な自然にあり
◆18歳の決意表明 姉の死が教えてくれた天職
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買い物をする時、野菜ならできれば無農薬栽培のもの、洗剤や化粧品なら石
油由来の製品や化学物質を極力使わずに作られたものがいいなと思っても、
「どこで買ったらいいのか分からない」「探す時間がない」といってあきら
めてしまうことってありませんか?今私が住んでいるドイツには、地球環境
や私たちの健康に配慮して作られたこうした商品だけを扱うエコスーパーマ
ーケットが各地にあるので、毎日の買い物が手軽で安心して楽しめます。
「日本にはどうしてこういうお店がないんだろう」と思っていましたが、実
はあるんです。衣、食、住全般にわたるナチュラルライフを提案するショッ
ピングモール「インターナショナルガーデンプランツ」(横浜市青葉区荏田
西1−3−3< http://www.ING-PLANTS.com >HPは近日オープン予定)が
そう。今回ご登場いただくのは、そのプランツを経営する(有)ナチュラル
ハーモニー代表の河名秀郎さん。前編では、ナチュラルハーモニーの売りで
ある無肥料栽培野菜の魔力、そして河名さんが今のお仕事にたどり着くまで
の道のりを伺いました。
(聞き手:コラボレーション編集スタッフ 木村麻紀)
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時代が求める本物の食をあなたに
天職をさがせ 第11回 河名秀郎さん(前編)
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河名秀郎(かわな・ひでお)さん
無農薬野菜の卸売・販売、自然食レストラン経営などを手掛ける(有)ナチ
ュラルハーモニー< http://www.naturalharmony.co.jp >代表。衣、食、住
全般にわたるナチュラルライフを提案するショッピングモール「インターナ
ショナルガーデンプランツ」の総合プロデュースで注目される。最近では、
肥料を一切与えずに作物が自然に育つ力を引き出す「無肥料栽培」に取り組
む農家をネットワークする「芸術栽培研究会」や、味噌やしょうゆ、納豆な
ど日本食の素晴らしさを代表する天然の醗酵醸造食品の作り手を発掘する
「菌匠会」などの活動を通じて、命の源としての本物の食を追求し続けてい
る。
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●無肥料栽培の“魔力” 答えは身近な自然にあり
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−肥料を与えない無肥料栽培の野菜を販売していらっしゃるということでと
ても驚いているんですが、どのようにして無肥料栽培がベストだという結
論に至ったのでしょうか
河名 無肥料栽培って、これまでの考え方からすると難しいとか、あり得な
いということになるんでしょう。でも、僕たちが推進している無肥料
栽培ってそんなに難しいことではないんですよ。周りの自然ってどう
なっているんだろうと考えてみてください。例えば、秋になると見か
けるたわわに実った柿の木。これには誰も何もしていません。たい肥
が必要だということであれば、柿の木にも誰かが肥料を与えなくちゃ
なりませんよね。でも、木から葉が落ちてたい肥になるかと思えば、
お母さんが箒で掃いちゃう(笑)。何も施されてないにもかからず、
たわわに実る連鎖が働いているのは何故でしょう。あまりにも自然で
意識されないのかもしれませんが、あれを不思議だと思わない手はな
いだろうという訳です。
ここで一つ、私たちにとって大切な先生をご紹介しなくてはなりませ
ん。それは、アレルギーの人々や化学物質過敏症の方々です。僕は当
初、彼らは免疫力などが「弱い」人たちだと思っていましたが、彼ら
や彼らと接している医者との交流を通じて、「弱い」のではなく「敏
感な」人たちだと思えるようになりました。どうしてそう思えたのか
と言えば、薬剤を使わず、自分が食べられるものを選びながら生きて
きた彼らの中で、ガンで亡くなった人たちは少ないないそうです。彼
らは防衛本能を持っている。仮に誤って食べてしまえばアレルギーと
して出てしまうので、体内に蓄積されないんですね。そして、こうい
う人たちに無農薬だから大丈夫だろうと言って有機肥料による野菜を
食べさせても、発作をおこして倒れてしまう人もいるんです。
これは色々な原因が考えられますが、一つには家畜のふん尿に含まれ
る化学物質、もう一つには窒素過剰ということがあります。作物の成
長に必要な栄養分を肥料として入れるということは、有機肥料でも化
学肥料でも行為としては同じことです。片方がケミカルで、片方はナ
チュラルであるとも言えますが、下手をすると有機栽培のほうが肥料
の供給量が多くなってしまいます。すると農作物が窒素過剰となり、
品質が落ちる場合もあるのです。
僕はこれを実験で確認してみました。スライスしたキュウリで(1)
化学肥料で作ったもの(2)有機肥料で作ったもの(3)無肥料栽培
で作ったもの、という三つを用意し、同じ環境のビンの中に入れてそ
れぞれがどのように枯れていくか時間をかけて見ます。人間の体と同
じように、酸化して老化していく様を見ていく訳です。どうなると思
います?答えですが、もし沢山のふん尿を肥料として入れているので
あれば、一番先に溶けるのは(2)有機肥料でのキュウリです。二番
目が(1)化学肥料のキュウリ。最後が(3)無肥料栽培のキュウリ
ですが、無肥料栽培のものは溶けずに枯れます。肥料成分の少ない有
機栽培のものであれば(1)と(2)の順番は逆になります。でも、
結局いずれは、(1)も(2)も溶けてしまいます。無肥料栽培とは
厳然とした差が出ます。両者の差は養分が供給されているか、自力で
育てられたかという点です。考えてみてください。山の中で溶けてい
る葉って見たことがあります?ないですよね、そんなものは自然界に
は存在しないんです。これで、野山は誰も肥料を入れなくても自然の
サイクルで養分が供給されているという冒頭のお話に戻るんです。
(1)と(2)は病気になり、そして虫に食べられてしまうため、そ
れを食い止めるために農薬をまかなければならなくなるのです。極端
な言い方ですが、(1)と(2)は自然界から淘汰されてしまうんで
すね。(3)は病気にならずに害虫にも食われないので、農薬が必要
ないのです。どれを食べたいかと問われれば、僕は品質の高いものを
食べたいのでここまでやってきた訳です。
お蔭様で、近年それが評価されて一般の有機野菜と言われるものより
もおいしいと言われるようになってきました。そして、このおいしい
という基準は進化しています。最近のおいしさというのは、細胞に染
み入る旨さですね。舌の上の感覚だけではなくて、喉ごしで感じる旨
さです。でも、その理由は分かります。肥料を入れると細胞が大きく
分裂するから粗いんです。でも、自然のスピードで育ったものは細胞
分裂が緻密なので、水に入れると沈みます。肥料を入れたものはだい
たい浮いてしまいます。肥料を入れてしまえば、化学でも有機でも結
果は同じ。
だから、有機イコール安全とは決して思わないほうがいいです。
−これは驚きました。有機栽培の食物は「体にやさしい」「環境に配慮して
作られている」というイメージを持っている方は多いでしょうし、生ゴミ
をリサイクルしたたい肥などによる有機栽培は良いことだと捉えられがち
ですが、必ずしもそうとは限らないということですね。
河名 そうです。これは青森の木村秋則さんの無肥料栽培のリンゴですが
(*取材後に家で丸ごと食べましたが、とてもおいしかったです!!)
これには色々な物語があるんですよ。売っている過程で何回お客さん
に泣かれたか分かりません。というのも、リンゴはだいたい30〜5
0回農薬を使うので、アレルギーの方々はまず食べられません。おそ
らく手に取っただけで発症するでしょう。一生食べられないと思って
いらっしゃるんですね、フルーツは。特にリンゴはね。でも、そうい
う人に「これは大丈夫だから」とリンゴを手渡して、その人がそれを
食べて、発症せずに喉を通った時、涙を流して喜んでくれるんです。
その人にとっては宝くじに当たったくらいの喜びなんではないんでし
ょうか。2億円とまではいかなくてもね(笑)。でも、こうした喜び
を皆に分けてあげたいなと思うし、ここ5年を見てもそういう方々が
増えています。世の中に山のように食品があっても食べられない時代
になってきているんです。
−無肥料栽培という方向でいけると確信したのはいつ頃ですか
河名 農家が経営的にもやっていけると確信したのはりんごの木村さんと出
会った3年前です。現在北海道から熊本まで42農家と契約していま
すが、無肥料栽培に取り組む農家は年々増えています。こうした農家
をネットワークして木村さんを会長に芸術栽培研究会というものを作
って活動しています。無肥料って言うとちょっと栄養なさそう、と思
われちゃったりするので(笑)、自然界の芸術作品、人間と自然が織
り成すアートという意味で名付けました。僕は事務局として全国を飛
び回っていますが、最初は頭ごなしに否定されましたよ。でも、きち
んと話せば、真剣に農業をやっている農家は分かってくれます。
(無肥料栽培を)できないとおっしゃる方は、自然を見ずに人工物だ
けを見ているのではないかと思います。自然回帰とか自然との共生と
いった言葉が乱立していますが、現実には調和もなければ共生もない。
自然から学ぶという姿勢に欠けているような気がします。あくまで人
間が優位に立って調和と言っているだけのような…。そうではなくて、
地面に目線を合わせた見方で新しいビジョンを切り開く能力が今、世
の中に必要とされているのではないかと思います。21世紀を生きる
ヒントも、このあたりにあるのではないでしょうか。
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●18歳の決意表明 姉の死が教えてくれた天職
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−さて、そろそろ河名さんが現在のお仕事にたどり着くまでをお話いただき
ましょう。身近な自然に真実を見る河名さんの自然観がどのように形作ら
れたか、とても興味があります。
河名 僕は45歳ですが、18歳の時にある決意表明をしたんです。栄養を
取るという考え方をやめて、本来の自然のありのままを食べようと決
めました。きっかけは姉を病気で失ったことで、自分にとって非常に
インパクトの強い出来事でした。僕も死んじゃうかもしれないでしょ。
寝込んだり痛いことは嫌いなので、以来そうやってきました。あれか
ら27年経ちましたが、薬も飲まず、医者にも行かず、健康診断も受
けていませんが、何の問題もありません。今は子供に対しても実践し
ています。彼らが健全に人生をまっとう出来るにはどうすればいいか
考えた結果です。産まれる時から私が取り上げ、予防接種は受けさせ
ず、食べ物は私が探したものを食べさせ、病気をしても自己免疫力で
治させて今日に至っていますが、とても元気です。
大学卒業後サラリーマンもやりましたが、もういたたまれなくなって
(笑)脱サラして農家への研修に入りました。そこが無肥料を実践し
ている農家でした。知識だけは詰め込んで行ったつもりでしたが、見
るもの全てが新しくて1年間はあっという間でした。そして、かなり
衝撃的な体験を数多くしました。例えば、ナスにはアブラムシが付い
てしまうことがあります。現在は窒素過剰なところに付くことが
分かっていますが、当時は分かりませんでした。そこの畑は無肥料で
したが、アブラムシが出てしまいました。でも、農家の方は
「雷が来たら解決だ!」なんて言うんです。実際に夏場だったので、
雷が鳴りました。翌日見に連れて行かれたんですが、アブラムシがみ
んな死んでるんです。びっくりしましたね。今でも何故か分かりませ
ん。理論的に説明できませんが、それによってアブラムシが死んでナ
スが元気を取り戻したのは事実です。だから、農薬はいらないって言
うんですよ。
それから、田んぼをやっているときにも面白いことがありました。ウ
ンカという稲の大敵がいまして、皆一斉に農薬を撒いて防除するんで
す。その農家はもちろん防除しないんですが、ウンカが来てしまった
んです。でも、「あ〜来ちまったな」なんておっとりしたもので、
「また、美しいものを見せてやるよ」なんて言うんです。翌日見に行
ったところ、朝もやの中で田んぼにくもの巣がびっしり張ってたんで
す。一晩にしてものすごい量なんです。で、クモがウンカ食べてるん
ですよ。あのキラキラした光景は忘れられません。そこで調節されて
いる世界があるんですね。自然の営みには分からないことがいっぱい
ある。人知を超えた世界に何度か遭遇して、「人間の知る範囲なんて
狭いんだな」と思いました。「分からないことのほうがたくさんある
んだな」ということを、その1年間での僕なりの答えとしたんです。
そして、今までの常識を鵜呑みにしないで、違った物の見方ができな
いかと努力してきました。
−そして起業 最初は野菜の引き売りをなさっていたそうですね
河名 もう恥ずかしくてね、結構お坊っちゃまだったんで(笑)。いきなり
知らない世界に飛び込んで、見よう見まねでやっていました。皆さん
からは八百屋というよりも野菜屋と見られていたので、ちょっと意識
して見てくれにも気をつけました。都会のお百姓さん風にオーバーオ
ールなんか着ちゃってね(笑)。それから3年後に3坪程度のお店を
持ち、それが10坪になりという経過をたどりました。でも、いつも
色々な方に助けてもらいました。資金援助ではないですよ。例えば、
ここのお店は保証金なしでも入れてあげるよ、とかね。お金を貯めて
何々をしたという経験は一度もありません。僕はね、無肥料栽培を
「無から有を生じるメカニズムを生かす」と捉えています。仕事も
「無から有を作る」ですよ。それが基本にあるので、「ないからでき
ない」ということはありえません。これが僕の人生観かな。自分が求
めたものを仕事にし、相手に喜んでもらって報酬を得て、結果として
ビジネスになっている。自分の時間と仕事の時間が一致している喜び
っていうんでしょうかね。仕事に関しても、みんなもっと原点に戻る
べきじゃないかな。
僕の場合、18歳の決断からこうして仕事になってしまったんですが、
自分が食べたいものを探して並べただけなんです。僕だって一消費者
だったんですよ。姉の死を通じて得られたアイデアを自分で実験した
くて、そして本当に元気で生きられて、農家の方々も持続的な農業を
推進できれば、これは天職にしてもいいと思って職業にしたんです。
取引している農家の中には有機栽培の方々もいますが、常に話してい
るんです、無肥料栽培のほうに行こうねって。また、これまで10入
れていた肥料を5にしてみませんか、とか。はたまた、この一画はゼ
ロにしてみませんかというふうに勧めています。そして、農家が実体
験として無肥料栽培が本当にできると気がつけば、日本の農業は変わ
るかもしれません。 (後編に続く)
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