食の地産地消 CSA&ファーマーズマーケット
地産地消とは、地元で作ったものを、地元で食べること。生産地と消費地の距離をできる限り近づけようとする、食料の生産・流通・販売のあり方です。日本では最近、大手のスーパーマーケットで店舗近郊の産地から調達した野菜がブランドとして店頭に置かれるようになりました。このような形以外にも、地産地消を進める色々な仕組みがあります。
その一つは、米国やカナダでさかんなCSA(コミュニティ・サポーティド・アグリカルチャー)です。
CSAとは、消費者がグループを作り、地域内の農家から農産物を前払いで直接購入するシステムです。CSAでは、ほとんどの農産物が有機・無農薬栽培です。地産地消ですから、もちろん農産物は遠くに輸送されずに地域の中で消費されます。このため、環境への負担をおのずと抑えることができます。その上、消費者が前払いする代金は、流通コストに消えず農家に直接届くため、農家は安定した供給先を確保しながら、安心して農作業に従事できます。
一方消費者にとっては、前払いなので作柄によって受け取れる量に増減が生じることもありますが、栽培法や出自の分かる新鮮な農産物を口にできます。農家と消費者とが支え合うCSAは、参加する農家と消費者、地球環境にメリットをもたらすwin-winな仕組みなのです。米国とカナダには現在、1000以上のCSAグループが各地にあります。
米国発のCSAは、実は60年代の日本の生活クラブを中心とした産地直送提携がルーツとされています。 CSAの世界でお手本とされた日本でも、海の向こうのCSAの広がりが戻ってくる形で、各地で少しずつ取り組みが進んでいます。
札幌市から東へ約30キロ。北海道長沼町にある「メノビレッジ長沼」でCSAを運営するレイモンド・エップさんと荒谷明子さん夫妻は、約5ヘクタールの農場で年間約40種類の野菜やコメなどを栽培し、札幌市も含む周辺地域に住む約80人の会員に届けています。会員は、肥料代や労働費などに当たる運営費として、一人当たり5万9000円から7万7000円の範囲で年間購入費を前払いします。会員になると、5月から10月までの週一回、季節ごとに異なる6ー12種類の野菜を受け取ることができます。
メノビレッジでは、肥料は鶏ふんや米ヌカを発酵させたものなどを使い、化学肥料はできるだけ抑え、さらに肥料の使用状況を会員に公表しています。エップさん・荒谷さん夫妻は、単に野菜を届けるだけではなく、野菜の生育状況や調理法などを載せた「野菜だより」を配布したり、農作業体験や収穫祭などのイベントを定期的に開催しています。こうした活動を通じて、「農業は農家だけがやるものではなく、食べることも農業の一部」(荒谷さん)という思いを伝えたいそうです。
配達場所に野菜を取りに来た人同士が野菜の調理法を互いに教え合ったり、子供を預け合ったりして、CSAを始めるに当たって予想もしなかったような人と人とのつながりも生まれました。また、これまで農場で研修していた人が新たに就農してCSAを始めるという、ご夫妻にとって嬉しいニュースもありました。作ることから食べることまでのすべてを共有する人の輪が、ここから広がっています。
地産地消を進めるもう一つの仕組みは、ファーマーズマーケットです。
ファーマーズマーケットとは、採れたての農作物や作りたての加工品を売りにやって来る、都市近郊の農家を集めた市場。ここで、ニューヨーク市内各地で行われているグリーンマーケットをご案内しましょう。
各農家のテントには、畑の場所や栽培法(オーガニックかどうかなど)が記されたサインがあります。これを見ていくと、ニューヨーク市の水道水の水源に当たる、市北西部一帯の農家が多いことが分かります。グリーンマーケットに参加している多くの農家は、色々な品種の野菜や果物を少しずつ生産しています。こうすることによって、同じ作物を繰り返し栽培することで起こり、農産物の品質を低下させると言われる土壌の劣化を防ぐことができます。農家はもちろん、農薬や化学肥料をできる限り使わないよう努力しています。このため、水源地の土壌や地下水の汚染も最小限で済みます。グリーンマーケットで買い物をすることには、新鮮でおいしい食材を口にできるばかりか、安全でおいしい水道水を飲めることにも貢献するという、二重のメリットがあるのです。
ニューヨーク・ユニオンスクエアのグリーンマーケット
76年にわずか12軒の農家で始まったニューヨークのグリーンマーケットには、05年現在、約200軒もの農家が参加しています。繁忙期には毎週25万人以上が、市内33地域47ヵ所に広がるグリーンマーケットで買い物をするまでになりました。ニューヨーク最大のファーマーズマーケット、ユニオンスクエアにあるグリーンマーケットの向かい側には、米最大手のオーガニックスーパーであるホールフーズ・マーケットの店舗もオープンし、この辺りはさながらニューヨークのオーガニックコミュニティーの中心地のような雰囲気を醸し出しています。
安全で新鮮な食べ物を市民に提供しながら、近郊の小規模農家と周辺の環境を守るファーマーズマーケット。全米では04年現在で3700ヵ所以上あり、10年前に比べて倍増しています。日本でも、街角の公園にグリーンマーケットのようなファーマーズマーケットが立ち並ぶ日が来ることを、心待ちにせずにはいられません。(2006年10月掲載)
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