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仕事と社会のこれからを考えるリポート&アクションマガジン
「きゃりあ・ぷれす」vol. 146
2003・9・3(水)発行
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■INDEX■
【特集企画】天職を探せ 第10回
ファッションビジネス業界から環境教育へ
「Be-Nature School」プロデューサー
森雅浩さん
◆「Be-Nature School」とは?
◆「Be-Nature School」をはじめることになるきっかけ
〜ファッションビジネスから環境教育への転職体験〜
◆「Be-Nature School」設立
◆現状の課題や将来の夢について
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「天職を探せ」第10回 ファッションビジネス業界から環境教育へ
「Be-Nature School」プロデューサー 森雅浩さん
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1980年代のはじめ、デザイナーズブランドの最盛期にファッション業界
の最先端にいた「彼」は、今、環境教育のプログラムを提供する活動を
続けている。
テーマは「Be Nature」。
人も街も社会も自然の一部。
だからこそ、根底にある自然を知り、地球を知り、自分を知ろう。
そんなコンセプトを持つ「彼」の提供するプログラムは、通常の環境教
育プログラムとは少し違った、ユニークで幅の広い視点を持って運営さ
れている。
消費の最前線からスピリチュアルでエコロジカルでサスティナブルな
(持続可能な)世界への転身。その軌跡のなかに私たちの学ぶべきいろ
いろなヒントが隠されてているのではないか。
そんなヒントを発見すべく、今回の「天職を探せ」には、Be- Nature
School の森雅浩さんにご登場いただいた。
※「身体感覚講座」でおなじみの松田恵美子さんをはじめ、
「Be Nature School」の講師陣がコラボレイトした本が出版されまし
た。岩波アクティブ新書「おとなの自然塾」と講談社「自分という自
然に出会う」の2冊です。
【プロフィール】==========================
森雅浩さん
サラリーマン時代はカヌー遊びやキャンプなどアウトドアに興じるが、出会
いを通じてアイサーチ・ジャパン(国際イルカ・クジラ教育リサーチセンタ
ー)の設立にかかわる。1994年に日本で開催された第4回国際イルカ・クジ
ラ会議の準備・運営に専念する為、退職。中心スタッフとして活動する。
会議終了後は人と自然と街のつながりをテーマにワークショップやトークイ
ベント、親子の自然体験プログラム等をプロデュースする。
現在、「Be-Nature School」及び運営母体の有限会社ビーネイチャー代表。
「Be-Nature School」サイト → http://www.be-nature.co.jp/
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●「Be-Nature School」とは?
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− 「Be-Nature School」ではどのような活動を行なわれているのでしょう
か?活動主旨などもお聞かせいただければと思います。
難しい言葉で言うと「自然体験型環境教育」ということになります。
自然学校なんて言い方もありますが、あまりジャンルにはこだわっていませ
ん。
自分自身の存在を思うとき、その根底にあるものは“自然”です。
どんな都市に住んでいても、地球に張り付きながら生きているということに
は変わりはありません。私たちはもっと自然の仕組みを知っておいてもいい
のではないか。ワークショップやプログラムを通じて“自然とのつながり”
を体験し、そこで自分なりに感じたものをそのあとの日常生活に活かしても
らいたい。それから、参加者同士や講師との出会いも大切な要素です。
そういった「学びの場」を提供するのが我々の仕事であると思っています。
− 「Be-Nature School」というネーミングになったいきさつをお聞かせ
ください。
“Do Nature”(自然の中で活動する)ではなくて、自分自身が自然であ
る、自然と共にあるという意味合いで“Be-Nature”としました。それは
「自分勝手」や「わがまま」とは違うと思うんです。人はひとりでは生きて
いけないし、もちろんきれいな空気や水があるから生きていける。ひとりひ
とりが“Be-Nature”であれば、社会全体が“Be-Nature”になるという願い
が込められています。
− 参加者の男女比はどうなっているでしょうか。
Be-Nature Schoolでは通常、女性が7割ぐらいですが、だいたいどの分
野でも女性が多いですね。他のスクールに聞いてもロッククライミングやラ
フティングやシャワークライミングみたいなアクティブなものでも半分が女
性だそうです。
Be-Nature School設立当初、想定していた参加者のイメージがあってそれ
は、27〜35歳の働く女性、都会に住んでいて仕事もそこそこ覚えてきた
けど、後から入ってきた男性社員が昇進していく。そんな中で、親からは結
婚を急かされて自分の人生をこれからどう送っていこうかと迷っている女性、
というものです。
そういった女性が自然との触れあいの中で、自分の人生を再発見していくと
いうイメージがありました。実際に狙っていたわけではありませんが、スク
ール参加を通じて、転職したり、フリーになったりと、仕事を変えた人は結
構います。最近は結婚したとか、子どもが出来たといった報告も多いですが
(笑)今はもっと幅広い層が対象になっていると思います。
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●「Be-Nature School」をはじめることになるきっかけ
〜ファッションビジネスから環境教育への転職体験〜
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− 「Be-Nature School」を始める前はほかの仕事をなさっていたというこ
とですが、そのあたりのことを聞かせてください。
以前はデザイナーズブランドの販売会社本部で店舗開発や顧客管理、ノベ
ルティ開発など洋服以外はなんでもやってました。販売員の採用も担当して
いたので、1日に20〜30人くらいの面接をしていたこともあります。
もともと商業スペースを作ったり運営することに興味があったんですが、就
職することにはあまり興味がありませんでした。
大学の卒業旅行でニューヨークに行ったんですが、旅費を生協が2年間の返
済計画で貸してくれたので、その分を返すために就職しよう、返したら辞め
ようぐらいの気持ちで働きはじめたんです。結局10年間働くことになりま
したが。
働き始めて2年目には鹿児島に転勤になって、ファッションビルを任され
ました。24歳で部下が20人いて5店鋪のマネージャーになりました。2
年で辞めるつもりが次から次へと新規事業に回されて、結構おもしろかった
ので真面目に働いているうちに10年が過ぎていたんです。
− 森さんの意識が自然へと向いていくきっかけみたいなものは何だったん
でしょうか。
20代後半から会社の同僚や先輩とアウトドアをするようになって、夏休
みに一人でジャングル行ったりして、自然の中に身を置くことが好きになっ
て来ました。それが、今につながるようになったのはICERC Japan
(アイサーチ・ジャパン:国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター)とい
うNGOで1年間ボランティアをしたのがきっかけですね。その団体の本部は
オーストラリアにあったんですが、1991年に日本支部つくることになり、
そことたまたま縁があって参画しました。
− 子供のころはどうだったのでしょうか。自然に対する原体験はあったの
でしょうか。
小学生のころは公害問題がひどくて、水俣病やイタイイタイ病がちょうど
ニュースで流れてて、このままいくと自分が大人になる頃には地球が終わっ
てしまうと思ってました。その頃住んでいた場所は東京の郊外ですが、トト
ロの森みたいな場所がたくさんあったんです。それが開発でどんどん住宅地
になっていくのを見ながら育ったので、環境に対する思いはその頃からあっ
たように思います。
あと、近くにわき水の湧く場所があって、そういうのを見るのが好きな子供
でした。土手を自転車で走ったり、そういうことが当たり前の少年時代を過
ごしました。
北海道のきれいな草原をテレビで見てどうしても行きたくなって、親に連
れていってと頼んだら、「大人になってから自分で行きなさい」と言われて
「大人になったらなくなっちゃうよ!」と本気で言ったことをよく覚えてい
ます。
− では先ほどの「アイサーチ(国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター)」
との出会いがきっかけで子供のころの原体験がよみがえったということ
でしょうか。その辺りのことをお聞かせください。
91年に渋谷パルコのパート2のショップ改装の時に、お店の真ん中に雑
貨コーナーを設けようと提案したんです。それで雑貨の仕入れを担当して、
いろいろ探すうちにクリスタルを扱っている会社に出会いました。そこの会
社の代表・岩谷孝子さんがオーストラリアの「国際イルカ・クジラ会議」に
参加していて、周りにはたくさんのイルカ・クジラな人がいたんです。時々
遊びにいってはいろいろ面白い話を聞かせてもらいました。
その頃は日本でのイルカブームのちょっと前で、イルカに興味をもった人が
外国に問い合わせると、「日本でイルカのことはタカコ(岩谷さん)ってい
う人がいるから連絡してみろ」と言われる感じだったんで、情報が集まった
んですね。
92年にハワイでイルカ・クジラ会議が開催されることが決まっていて、
日本から何人かで行こうという話になって、91年の11月くらいから準備
を手伝い始めました。実際に関わったのはそこからですね。
それでテレビ局の企画で「イルカ・クジラと共存する未来づくり」みたいな
うたい文句でメディアと絡んで15人くらいで行くことになったんです。
それで、そのハワイの会議に出席することを上司に相談しました。働いてい
て休みも取れないことは分かっていたので、これは会社辞めなきゃ、ハワイ
には行けないだろうなと思っていたら、上司は意外にも「それはいいことだ」
みたいなことを言ってくれてすんなり行けることになりました。
92年の次のイルカ・クジラ会議が94年で、今度は日本で開催というこ
とになって、これはいよいよ大変なことになってきたと感じました。また、
それと時期を同じくしてだんだんと仕事への情熱がなくなってきていました。
こちらのネットワークの方が新鮮で面白いわけです。自分はこっちの世界で
真剣にやってみたいと思いました。それで、93年に会社を辞めました。
− 辞めるときにはどういう気持ちでしたか。
流れの中でだんだんとこっちの方に来たということもありますが、「この
ままでは社会の中で行き詰まるな」という思いがありました。その頃はもう
自分がさほど愛着を持ってないものを人にすすめることにどうしても抵抗が
あったわけです。また、そんな自分が会社にいることによって、周りにも悪
い影響を与えるのではないかとも思いました。それでも辞めるまでは悩みま
した。生活できるかどうかも不安でしたし。92年の10月に結婚したんで
すが、そのときはもう辞めようと心に決めてました。
− 結婚したというのに辞めようと思ったんですか。
逆に妻の後押しがあったんです。お尻を蹴られたって感じです。それがな
かったら、辞める時期はもう少し後になったでしょうね。ずっと続けること
はしなかったでしょうけど。それと、「どうにかなる」とどこかで信じてい
たところがあります。
− そのあとはどうやって生計を立てたんですか。
会社を辞めてから、アイサーチの活動をしてもそこから収入があるとは思
っていませんでした。退職金とか失業保険で1年ぐらい何とかなると思って
いました。そのうち仕事も生まれるだろうなんてね(笑)。それでも会社を
辞めてからもいろいろ悩みましたよ。「これは本当にやりたいことなのか」
とも考えたりしました。
− 一番辛かったことは何だったのでしょう。
94年に日本でイルカ・クジラ会議があって、それが終わってから半年く
らいは本当に辛かったですね。目標にしていた会議は終わっちゃって熱が覚
めていく状況の中、失業保険も切れるし、仕事はないし、正直ヒモみたいな
もんです。いや〜、奥さんには感謝してます。
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●「Be-Nature School」設立
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− そのあと「Be-Nature School」を設立するまでの経過はどうだったん
でしょう。
94年のイルカクジラ会議の後に、ダイビングのインストラクター2人が
訪ねてきたのがきっかけです。アイサーチの頃から小笠原にイルカやクジラ
に会いにいくツアーもボランティアでやっていましたが、イルカに会えない
場合、ものすごくがっかりする人がいっぱいいるんです。周りにはいい森や
海があるのに、がっかりして帰るのはおかしいと思っていたんです。そんな
思いと海だけじゃなくてもっと広く自然を伝えたいという彼らの思いが重な
って、貴重な自然からのメッセージを単発ではなくて継続的なプログラムで
もっとしっかり伝えようというコンセプトが生まれました。
それで、海だけでなく、森、山、都市の自然や心とか身体の専門家で賛同
しくれる仲間を集めていって「ベーシック・コース」というものを1年半か
けて準備しました。
そうこうしているうちに、Be-Nature Schoolの運営母体になっていた岩谷
さんの会社を引き継ぐことになって、98年の4月に有限会社ビーネイチャ
ーと社名を変更し正式に代表になりました。
− 事業内容はどういったことを行なっているのですか。またそこから収益
は出ているのでしょうか。
正直なところは主催のスクール事業だけではやっていけません。ビーパル
のアウトドアイベントを企画運営したり、“チーム・ビルディング”や“リ
ーダーシップ”をテーマにした野外での企業研修も実施しています。
ワークショップやプログラムづくりについてのコンサルタントもやっていま
す。この前は「公民館における事業企画」という講習の依頼もありました。
そういった企画を発展させていくこともビーネイチャーの今後の運営に必要
だと思っています。
− 今、楽しいですか?
もちろん楽しいですが、でもそう単純ではないですね。会社を辞めたとき
はネイチャー系のイベント屋でもやればいいやと思っていたくらいなので、
ある意味思い通りになっているというのはあります。
人との出会いの中で勉強して、単なるイベントというよりも環境教育という
か、学びの場を提供していく意識でやっていますが、自分が勉強していく中
でこうなったという印象です。
「ベーシック・コース」を始めた頃は今にくらべると素人同然でした。です
から大変だったけど、何でも新鮮で楽しかった。ただ。3年くらい前から
「運営してるけど、経営してないなあ」という問題意識も感じるようになり
ました。今は少ないながらスタッフも抱え、今までより組織としての経営を
強く意識するようになりましたね。
ですから、以前に比べるとひとつひとつのプログラムに集中するよりは、も
っと全体を見るようになってきたように思います。
でもそういうときに、講座に参加する人が回を重ねて参加する度にだんだん
といきいきしてくるのを目の当たりにすると、こちらが逆に元気を分けても
らったりして、こういう喜びが原点なんだと強く認識しています。
− 以前のファッション業界と今の生活を比べて、どっちが良かったと思わ
れますか。
どっちが良かったとは思わないです。なるべくしてこうなった、今の自分
がベストだとは思ってます。でも、もし以前の会社を辞めてなかったらと思
えば、それはそれでどんな人生を送っていたか、ちょっとやってみたいよう
な気もしますけど(笑)。
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●現状の課題や将来の夢について
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− 今の仕事で考え方が変わったことなどありますか。
最近、人に企画のやり方を教えるようになって気が付いたんですけど、企
画力ってアイデアが豊富な人と着地させるのがうまい人がいて、最近特に自
分は着地させることばかり考えてるなぁと自覚するようになりました。こう
いう仕事でちゃんと稼ごうと思うと、どう着地させるかということを押さえ
ておかないと仕事にならないんです。
「アイデア力」と「着地力」の両方があればそれが一番いいのでしょうけど、
多分年齢に応じても変化があるんだろうなと思っています。
− 将来の夢を教えてください。
先日、自分自身の「未来予想図」を絵に描くという主旨のワークショップ
をやって、自分も参加したんですが、そこで出たキーワードが私の場合、
「引退」でした(笑)。引退して海の見える家に住んで、時々サーフィンと
かして暮らすということみたいです。
それで自分自身、やりたいことはもう何もないのかと思ってよくよく考え
てみると実はけっこうあって、もしできるなら、「伊豆七島自然学校ネット
ワーク」というのを作ってみたい思っています。
各島にひとつに自然学校を作って、ネットワークでフィールドやプログラム
開発すれば面白いことになると思うんです。
それから、真面目にカフェやりたいです。都心にBe-NATURE organic Cafe
があって、ナチュラルな食事だけでなくメッセージも発信する。さらに海辺
に拠点を持って、海のプログラムに加え、畑とか森作りもやっちゃう。とい
ったかんじです。これは夢っていうより事業プランでしょうか。是非やりた
いです。
いろいろと夢が自分の中から出てきて、まだまだやりたいことはあるなあ
と気付きました。(了)
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