転換点を超えるために LOHAS10 リポート
米国のロハスビジネス関係者が集まる年に一度のビジネス会議「LOHAS10」が、今年も4月26日から3日間、米カリフォルニア州サンタモニカで開かれた。
LOHAS会議の前身である「ナチュラルビジネス・マーケットトレンド会議」が1997年に始まって10年。当時はまだごく一部の人々しか親しめなかったオーガニック食品もハイブリッド車も、欧米では生活者にとって身近なものになってきた。環境に配慮したライフスタイルへの人々の関心も、かつてないほど高まっている。そう、ロハスは今、大きな転換点(ティッピング・ポイント)に達したと見なされているのだ。
この転換点を乗り越え、ロハスが主流となる社会を作るにはどうすれば良いのかー。これが今年のメインテーマとなった。
LOHAS10会議の様子
◆ロハスは「選択肢」から「必需品」へ
米国では、ロハスが本当に社会の主流になりそうな兆候がある。
エネルギーを食う大きな家に住み、車に頼りながら生活する人々。最近の原油高に伴う電気代とガソリン価格の高騰に大いに苦しめられている彼らは、環境や人体への負担の少ない建材を用いた省エネ構造のグリーン建築にひとかたならぬ関心を寄せ、燃費の良いハイブリッド車への買い替えをいよいよ真剣に考え始めている。グリーン建築とクリーンエネルギー技術。米国ではこの2つこそが今、ロハスが転換点を超えるかどうかのカギを握る、ロハスビジネスの主戦場なのだ。
ここ数年の米国のグリーン建築の広がりはすさまじい。米グリーン建築協議会(USGBC)によると、同団体のグリーン建築認証(通称「LEED」)を取得した新築の大型建築物は約2800棟と、3年前の4倍余に増えた。グリーン建築の波は住宅にも及んでいて、今年の米国のグリーン住宅市場は昨年比20%増と見込まれている。
環境配慮型プレハブ住宅メーカーとして昨年創業したリビング・ホーム社(米カリフォルニア州サンタモニカ)の担当者は「住まいはこれまでロハスの価値観を反映させるのが最も難しい分野の一つだったが、デザインをある程度標準化することでこの困難を少しでも克服したい」と語る。同社のようなグリーン住宅メーカーがさらに増えれば、グリーン建築が今後オーガニック食品に次ぐロハス市場の牽引役となるだろう。
サンタモニカにお目見えした米国初のLEED認証付き住宅
ハイブリッド車の人気もうなぎ上りだ。3年連続でLOHAS会議のメインスポンサーを務めた米フォード・モーターでは、4月のハイブリッドSUV「エスケープ」の販売台数が過去最高を更新。同社は、ハイブリッド車の生産台数を2010年までに年間25万台とする方針を打ち出している。米国では、植物由来のバイオ燃料の需要もじわじわと増えている。もちろん、太陽光や風力、バイオマスなどの自然エネルギー熱も衰えていない。
グリーン建築やクリーンエネルギー技術の隆盛は、ロハスがライフスタイル上の選択肢から、脱石油社会に向けた必需品へと変わりつつあることを示しているように見える。
◆ロハスビジネス成功の秘訣「売り込まずに自分が変わる」
ロハス志向の商品やサービスを望む人々のニーズは溢れている。では、ビジネスはどのようにしてそのニーズに応えれば良いのだろうか。
バイオダイナミック農法の素材を用いた化粧品を販売するドクターハウシュカ・スキンケアとアウトドア用品大手のパタゴニア。LOHAS10のステージに立った両社に共通するのは、単に「環境にやさしい」といった付加価値を乗せた商品を売るのではなく、原料の調達から販売に至るすべての過程で、環境や健康に負担をかけないという価値観に基づいてビジネスを展開している点だ。
パタゴニアのリック・リッジウェイ副社長は言う。「われわれは、環境問題の解決のためにビジネスを行うというミッションに忠実にやっているから、結果的にロハス層を引きつけているだけ。価値観に基づいてビジネスをやれば、商品を売り込む努力をわざわざせずに済むのです」-。ロハス層にマーケティングするのではない。企業自らがLOHASの価値観を持った存在として変わることこそが今、求められている。
リッジウェイ副社長
◆次の10年を占う”革命児”来たる!
転換点を迎えたロハスの10年先の展開は-。これを占う上でのキーマンとなりそうなのが、AOL創設者としてインターネットビジネスで一世を風靡したスティーブ・ケイス氏だろう。
約2年間の沈黙を破り、彼はロハス関連ビジネスへの投資を専門とする、その名も「レボリューション(革命)」という企業を昨年設立。早速、子会社のレボリューション・リビングを通じて、米西海岸を中心にカーシェアリング事業を展開するフレックスカーや、米アリゾナ州にあるスパ・リゾート施設「ミラバル」などを買収。ロハス関連商品販売のガイアムにも出資した。今年1月には、パタゴニア前社長のマイケル・クルーク氏をレボリューション・リビングの社長に迎え入れ、同社のミッションである「ロハスビジネスの主流化」に向けていよいよ臨戦態勢を整えた。
LOHAS界に革命を引き起こすのか…。
「ロハスをすべての米国の人々が享受できるようにすべきだ」と力強く訴えたケイス氏。ロハスはウェブやEメールのように人々にとって”普通”のことになる日が来るのか-。ロハスの10年後が楽しみになってきた。
(写真撮影;斉藤静吾 2006年10月掲載)
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