2016.3.2発行 vol.393
--------------------------------------------------------------------
■INDEX■
発行人の気まぐれコラム 5
…………………………………………………………………………………………
今夜は、下弦の月です。月の左半分が光っている半月です。今日が終わる頃から一晩中見られます。潮は小潮。これから新月に向かって、テンションは下がり気味になります。ちょっとボウッとしてうっかり事故を起こしてしまう傾向があるので、車の運転には気をつけて・・。それも、自分だけボウッとしているのではなく、多くの車がその傾向になっていることをちょっと意識してください。
・・・というようなことを、ほぼ毎日FBで発信しています。お時間あれば・・ https://www.facebook.com/kyurekibijinDIARY
さて、本題。
前号コラムで、ネイチャードキュメンタリー映画「SEASONS~2万年の地球紀行~」のお話をしました。
観終わって驚きや感動がおさまり、買い物などを済ませた帰り道、ふと私の頭に浮かんだのは、アニメーションTV番組「まんが日本の昔ばなし」でした。
「SEASONS」では、特に近代が野生生物や自然を破壊してしまっていて、それが深刻な問題だという所までははっきり語っていました。ただ、ではどうするかという所までは至っていませんでした。せいぜいWWF的な自然保護を進める方法しか発想できていない気がしました。
「自然保護」というのは、あくまで偉い人間が自然を護ってやらねばというスタンスに立ったものだと感じます。それは、どうもスタンスそのものが間違っている。それでは本当の解決には結びつかない、というのが私の感覚です。
そこで浮かんだのが、「まんが日本の昔ばなし」です。
自然と人との関係がそれとは全く異なり、人間は、自然からの恵みを分けていただいている、偉大な自然の力に生かされているというスタンスのものです。人と自然との関係が一神教の考え方とは全く逆転しているとも言えます。「まんが日本の昔ばなし」は、そんな元々の私たちの思考をベースとした江戸時代以前の各地に残る昔ばなしを集めてアニメ化したものです。
このシリーズは、1975年(昭和50)から1985年(昭和60年)まで、NETテレビ(現テレビ朝日)で放送されたものだそうです。ちょうど私は大学から社会人初期に当たる時期だったので、ほとんど家にいることもなく、その名前や存在は知っていましたが、ほとんど観たこともなく、注目することもありませんでした。
それが去年(2015年)7月からCATVの時代劇チャンネルで再放送されています。その放送を観て、毎回とても面白かったり、感動したり、時には無性に涙が出たりしています。
私たちの心の奥底に今でもまだかろうじて残っている、人間としてのあり方、自然に対する感謝と畏敬の念を、優しい絵と声、音楽などで表現した作品には、とても感銘を受けます。
そこには人と人とのつき合い方の心得、家族や他の人への思いやり、助け合いなどが描かれていますが、全く同じレベルで人と野生とのつき合い方も描かれています。
この番組を観るたびに思うのは、幼稚園、保育所、小学校低学年の子供たち、まだ固定概念に毒されていない初々しい感性を持っている子供たちに、何の説明もなく観せてあげたい、という思いです。道徳などといってつまらない建前を上から押し付けるのでなく、面白がりながら自然に無垢な心のキャンバスに、この作品世界を届けたいと思うのです。
そこに表現されているのは、私たちが江戸時代までの長い歴史の中で培った原風景ですし、人としての生き方考え方の基本中の基本ではないかと思います。このベースだけ私たちこの列島に住む者たちが持っていれば、今毎日のように起こっている様々な事件の多くが抑止されるのではないかとさえ思います。
ネイチャードキュメンタリー映画「SEASONS」ではっきり描かれた、人間と野生生物、そして自然との関係の大問題。「近代」的な、そして一神教的な発想では、決して根本的には解決できないであろうこの問題に、一つの解決の方向性を示しているのが、「まんが日本の昔ばなし」に描かれた世界ではないかと思います。
この昔ばなしは、日本列島各地の「近代」に侵食される前の、主に農・林・漁村部を舞台としていて、貧しい村びと、そして人と共に働く動物や野生生物が主人公。
自然の優しくも厳しい風土の中で、人と動物が共に暮らす姿が描かれています。
そして、自然界のあらゆるものに神が宿り、人はそうした自然を敬い畏れ、生かしていただいているという基本の考え方が染みついています。もちろん人間は生きるために野生生物を殺す訳ですが、その時も必ず申し訳ないという気持ちを持っていて、奪ってしまった命が司っていた身体はすべて余すところなく役に立て、必要以上の殺生は慎むのです。
例えば、燃料としての鯨油を採るためだけにクジラを大量殺害し、それ以外は捨ててしまい絶滅に至らしめておきながら、もう鯨油が不要になると急に、日本の伝統的なクジラ漁にとやかくいう「シーシェパード」みたいな発想ではありません。西欧系の基本スタンスはどうもマッチポンプな気がしてなりません。
私たちは古来、殺生してしまった命に詫び、感謝し、供養するために祭事を行なったりします。そこには古来からの元々の信仰と合体した仏教、お坊さんも登場します。
その風景や人々の営みは、大変美しく愛おしいものです。
野生の自然界と、人の住む集落の間にある「里山」と呼ばれる緩衝地帯のあり方こそ、人と自然との共存にとってとても示唆に富んだものではないでしょうか。
映画「SEASONS」のパンフレットには、もののけ姫など「ジブリ映画へのオマージュ」という文面もあります。私もジブリ映画は大好きですが、そのジブリ映画のベースには、この列島に古くから語り継がれた民話、昔ばなしがあると思います。
その本当のオリジナルを知ってもらうためにも、ぜひ「まんが日本の昔ばなし」のまずは英語吹き替え版をつくり、欧米など世界各地にアプローチしていくべきではないでしょうか。
ただ、簡単に吹き替えと言っても、このアニメにとって市原悦子さんと常田冨士男さんの声の貢献は大変大きいと感じます。
たった二人で、すべての登場人物や動物たちの声、ナレーションまでを担っているのです。それがまたいい味を出していて、このアニメの世界観を作り出していると思うのです。
それを吹き替えられる英語圏の声優や俳優を探すのは、相当難しいことだと思われます。でも、その意義はあると私は思っています。
すでにそんなことが動き出しているのであれば、もちろん嬉しいことだと思います。
どうなのでしょうか。
「だったら、それをつくって広げるのをやったら? 最後の仕事で」なんて、また「SEASONS」を一緒に観に行った友人に冗談まじりに焚き付けられたりしたのですが、私はアニメの世界のキャリアなどないので、せいぜいこうしてコラムに書くのがいいところだと思っています。
どなたか、そうしたプロジェクトに取り組んでくださる方はいないでしょうか。
ご意見・ご感想を心よりお待ちしております。
時代劇チャンネル「まんが日本の昔ばなし」
http://www.jidaigeki.com/osusume/201507_mukashibanashi/
2016年3月02日 『きゃりあ・ぷれす』発行人 宮崎郁子
株式会社パンゲア 東京都渋谷区恵比寿西1-24-1
メールアドレス cp-info@pangea.jp