2006.10.20発行 vol.233
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■特集企画■
「天職を探せ」第15回 カエルメディア代表 鈴木菜央さん《後編》
  WEBコミュニティー・メディア『greenz.jp』編集長
 
  ◆ メディアのパワーで創造的に世の中を変える(カエル!)
  カエルメディアの設立。そして自分にしかできないと感じているWEB
  コミュニティー・メディア『greenz.jp』に賭ける思い。
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            「天職を探せ」第15回
         カエルメディア代表 鈴木菜央さん 《後編》
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【プロフィール】==========================
鈴木菜央さん(すずきなお)
カエルメディア代表・『greenz.jp』グリーンズ・ジェイピー編集長
 
1976年イギリス人の父親と日本人の母親のもとに、タイのバンコクで生
まれた。6歳の時に父親の仕事の関係で東京に転居、学校教育は小学校から
大学まで日本の教育を受けた。大学は東京造形大学でデザインを学ぶが、浪
人時代に体験した阪神淡路大震災のボランティア活動がその後の方向性を決
めることになる。大学卒業後、アジア、アフリカからの研修生を農村指導者
として養成するNGOアジア学院でボランティアスタッフとして働く。その
後、父親が社長を務める外資系建築コンサルタント会社カリー&ブラウンジ
ャパン・リミテッドを経て、木楽舎へ入社。月刊『ソトコト』にて編集者と
しての道を歩き出す。3年間勤務したのち退職。2005年カエルメディア
を設立。『ソトコト』のライター、企業の広報誌や環境報告書の別冊、のフ
リーペーパー、アースディの公式ガイドブックなど、フリーランスとしてエ
コロジカルなテーマを取り上げたメディアの編集に多く携わっている。

◆WEBサイト『greenz.jp』(グリーンズ・ジェイピー)とは◆―――
20代から30代のワカモノ層をターゲットにしたエコロジー系WEBメデ
ィア。「エコスゴイ未来=エコで持続可能で平和でわくわくな社会」を目指
して、2006年7月に設立された。1999年から同じテーマで「BeGood
Cafe」という月に一度のトークライブイベントを展開し、ワカモノを巻き込
んで大きな成果をあげているNPO法人「ビーグッドカフェ」が設立した株
式会社ピース・コミュニティー・プランが運営する。

 greenz.jp(グリーンズ・ジェイピー)URL:http://greenz.jp/
  BeGood Cafe(ビーグッドカフェ)  URL:http://www.begoodcafe.com/

 株式会社ピース・コミュニティー・プラン  
             URL:http://www.peace-cp.com/news/index.html

◇前編は内容はコチラ→
http://www.pangea.jp/c-press/backnumber/cp-0232.html
  ◆ 元ヒッピーのイギリス人の父親から受け継いだもの
  ◆ 阪神淡路大震災のボランティア活動で知った「人のチカラ」
  ◆ 雑誌『ソトコト』の編集者になって

・・・・いよいよ後編です・・・・
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  ◆ メディアのパワーで創造的に世の中を変える(カエル!)
  カエルメディアの設立。そして自分にしかできないと感じているWEB
  コミュニティー・メディア『greenz.jp』に賭ける思い。
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*木楽舎を退職された後、独立なさったんですね。

えぇ、世の中を変える(カエル)メディアという意味で、カエルメディアを
設立しました。「ソトコト」はフリーライターとして今も記事を書いていま
す。他には、企業の広報誌や環境報告書の別冊、フリーペーパー、アースデ
イ東京のガイドブック「地球の日の歩き方」など制作しました。「地球の日
の歩き方」は2007年版も僕が作りますよ。

『ソトコト』でメディアのパワーをどう使うかということを学んだので、そ
のパワーを1人でも多くの人が幸せに生きられるために、人々のために使い
たいと思っています。

*ご自分にとって今のお仕事は「天職」ですか。

今回の取材のお話を伺う時まで、そんな風に考えたこともなかったんですけ
ど、今、自分にしかできないことをやっているなという実感があって「天
職」だといえると思います。

というのは、今年7月に立ち上げた『greenz.jp』が目指しているものは僕
が目指していることそのものなんです。

世の中をエコで持続可能で平和でワクワクするような社会にしていきたいで
すね。

僕は自分のことを「在日地球人」だと思っているんですけど、今の仕事には
「在日地球人」としての充実感があるように思います。地球という巨大な自
然をというか、生態系の一部としての地球人という意識ですね。

*「在日地球人」か・・・。いい言葉ですね。

そして今、自分が「地球の一部」だってことに気が付いている人たちがすご
く増えてきていると思います。

それって、人間なら、みんなハッピーになりたい・・・みたいなことだと思
うんですよ。ゴミをガンガン捨てたり、石油をバンバン燃やす気分の悪い生
き方をしたくない。僕も皆も、地球の一員として気持ちよく生きていく、い
こうよって。

そんなことに僕は貢献できるなという実感があります。それは子供のためで
もあるし・・・。

まだ始まってちょっとしかたっていないんですけど、でももうすでに効果が
現れている感じがします。

『greenz.jp』が経済的に成り立つためには、超えなくてはいけないハード
ルがたくさんありますが、うまくいかないはずがない。絶対世の中変わるは
ず・・・という自信があります。

根拠があるわけではないんですけど・・・(笑)。

*新しいことに根拠なんてないですよね。
  ところで、自分にしかできないと思うのはどうしてですか?そこにはちゃ
  んと根拠があるのだろうと思いますが・・・(笑)。

そうですね、言葉にするのは難しいけど、やっぱり地球とつながっているん
だ!という感覚をもっていて、世界のニュースにもアクセスできて、それを
たくさんの人にメディアの力を使って伝えていける、ということだと思いま
す。

僕だけができるということではなく、僕にはやらなくてはいけないことがあ
るという感じかな。

*それはバイリンガルだからということだけではなく、イギリスから車で来
  ちゃったりするお父さんの世界観や日本に生まれ育ったお母さんの土着性
  みたいなものの両方が、鈴木さんのベースにあるということでしょうか。

そういうことだと思います。

ひとつの単一のバックグラウンドを持つということがすごく幸せなことで、
うらやましいなと思って僕はずっと生きてきたんですけど、でもやっぱり、
そうじゃなく複数のバックグラウンドを持ってて、それがミックスできる
というのも楽しいことだし・・・。

それに、いつも自分は何人なんだろうって考えて生きてきたし、メインスト
リームからはずれている人々、マイノリティーに対して敏感に反応してしま
うということもありますね。マイノリティーの人たちが平等な立場に立てな
くて不幸なのは許せないと思ってしまう。

でも、そういう人の社会の問題と、いわゆる環境問題はつながっている、と
いうか同じ問題だと思っているんです。

地球の本質って、生態系を作り上げている全ての生き物のネットワークです
よね。生物が存在しなければ、火星と一緒でしょ。酸素だって、食べ物だっ
って、家にあるモノはほとんどは生き物からできている。プラスチックだっ
て石油だし。石油は恐竜や植物が死んでつくられたもの。そういう生態系の
バランスやネットワークがあるから、私たち人間も生きていけるわけです。

そんなことを全部無視した効率優先の大量消費社会は長続きしませんよね。
速く走るクルマとか、ひたすら安い野菜とかひとつの目的のために、私たち
は生態系のバランスをどんどん壊しているのです。言い換えれば、生物の多
様性が失われている。それは人間社会も同じです。だから、環境問題と人間
社会の問題はつながっていると思います。

*鈴木さんがいつもおっしゃている「地球も人も、皆ハッピーになりたいよ
  ね!」っていうアレですね。

そうです(笑)。

日本では、環境のことを扱うメディアで、市民と本当につながって成功して
いる事例ってまだないと思うんです。『greenz.jp』はその一番乗りになり
たいですね。

今、社会的な問題や、環境問題に対して「クリエイティブな方法で社会を変
えていこう」という意識をもった人もすごい勢いで増えて増えているように
思います。メディアとしてそういう人たちをもっともっとつなげていって、
社会を変えるお手伝いをしていきたいですね。

自分自身も、僕が動くことで世の中が変わってきたなという実感があるし、
これからはもっともっと加速度がついて変わっていくと思いますよ。

『ソトコト』でNPOのことをずっとやってきましたので、新世代型のNP
Oとは、かなりつながりがあります。新世代型というのは、昔の「〇〇反
対!」型のNPOではなく、スタイルがあって、若者に指示されていたり、
現代的な感覚で社会変革を目指しているNPOです。彼ら、彼女らとは、と
てもいい関係ができています。

*その嗅覚で『グリーンズ』を立ち上げられ、『greenz.jp』はきっと鈴木
  さんがおっしゃる一番乗りのメディアになると私たちも期待していますが
  今までのものとは違う『greenz.jp』の可能性って何ですか。

僕がいまフォーカスしているのは、WEB2.0の考え方です。

WEB2.0というのは、ITの単一な技術やキーワードのことをいうので
はなく、これまでは情報の受け手だったユーザーが発信者になったり、どん
どんユーザー同士でつながったりする潮流を総称した言葉なんです。

WEB2.0の考え方や技術を、NPOやボランティア、社会貢献のパワー
と掛け合わせることで、ものすごい社会的変化がおきるのではないか、と
思っています。

今、社会的な問題や、環境問題に対して「クリエイティブな方法で社会を
変えていこう」という意識をもった人もすごい勢いで増えていると言いまし
たが、僕は彼ら、彼女らを「社会をデザインする人」ということで、「ソー
シャルデザイナー」ではないかと思っています。

そういうクリエイティビティ(創造性)をもって活動している人たちという
のは頭の構造が少し違うような気がします。例えば「こんにちは」って初め
てであって「この人面白い!」と思ったら、30秒後にはもう新しいプロジ
ェクトが始まっている。もしくは、それだったら、誰それと会ったほうがい
いよ。紹介するよ、と言って、電話をかける。彼ら彼女らは、自分と人、他
人と他人をつなげることで、世界を変えるパワーがどんどん増幅されること
を知っているわけです。

Skaype、チャットやSNS、ブログ、RSSリーダーやソーシャルカレンダーなど
のWEB2.0技術を通じてどんどん話が進んだり、つながったりするよう
になっている。彼らの考え方や思考回路がWEB2.0に非常に近いわけで
す。

というか、ソーシャルなクリエィターの頭にWEB2.0がやっと近づいた
ということですね。

そのWEB2.0の技術を僕たちがしっかり持って、いろんな人がいろんな
ところで発信する情報を増幅したり、彼ら彼女らがつながる手助けをして社
会的変革を起こすこと、それが『greenz.jp』です。

*そういえばコンピューターが得意とおっしゃてましたね・・。

今ではコンピューターは手足、脳の延長ですね。僕が中学生ぐらいの頃だっ
たと思いますが、インターネットというものが世に出てきた時、とにかく
ぶっ飛びました。

それまでずっと、マスメディアというのは少数が中央から「大衆」に向けて
情報を発信して「ありがたく受け取りたまえ」と言う感じですよね。本当に
自立していて自由なメディアはガリ版、ミニコミ誌とか口コミしかなかた。
けど、インターネットというものが出てきた時、「これはヤバイ!世界が変
わる!」と思ったんです。本当の意味で自由な世界、本当のことを本当と言
える世界がこれで実現するかも、と思って興奮したんです。

その結果、今やひとりのブログの書き込みがきっかけで、世界中の世論を変
えた話はいくらでもあります。アメリカでも、市民がニュースを投稿、推薦
して評価するメディアが驚異的に成長しています。もちろん問題も多く発生
していますが、インターネットは社会が健全なカタチで動いていくためには
大変重要な技術だということです。

その頃はただの中学生でしてので、僕は指をくわえて見ているしかなかった
のですが、絶対そういう時代がくると確信していました。ダイアルアップで
つながるようになった時には親に、50万円借金してパソコンを買いました
よ。

*『greenz.jp』は、鈴木さんの集大成になるようなお仕事ですね。

う〜ん、集大成というか、やっとスタート地点に立てた、という感じですね。

*カエルメディアのカエルはメディアの力で世界を変える(カエル)という
意味らしいですが、10年後、20年後、世界は変わっていますか。

う〜ん厳しい質問だなぁ〜(笑)。

変わっていると思いますよ。

ちょっと振り返っても、2000年から2006年、たった6年の間にいろ
んことが変わったじゃないですか。

これからはもっと加速度がついて変わると思います。

僕のビジョンは、人間の社会そのものが、そろりそろりと大いなる循環の
輪、母なる地球の中に戻っていく、というものです。今までのように資源や
動植物環境から徹底的に奪うことはできないので、あることは多少不便に
なったり、あることは技術の進歩で現在よりも便利になったりするでしょう
が、基本的には多くの人間が大いなる環境を尊敬し、人間全体が環境負荷と
自然のバランスをうまくとって生きていけるような社会ですね。私たちは、
自然の利子がどれくらいかを見極めて、その利子の範囲で生きていくのです。
それが持続可能ということではないでしょうか。

地球全部がそんな社会になるのは相当先でしょうが、個人、家庭、集落、学
校友人、サークル、メディア、コミュニティー、企業なんかの単位で、そん
な社会が少しづつ成立していって、やがて水の波紋みたいに広がっていくん
じゃないかな。

『greenz.jp』はそんな社会のための、情報のハブになりたいですね。

*鈴木さんの分け隔てのない情報が世界中に広がっていけばいいですね。

そうですね。世界中ののいろんなところ、それは都市でも田舎でも、どんな
ところにいる人も、1人でも多くの人がそれに気付けば、世界はもっとハッ
ピーになると思いますよ。必ず!

*『きゃりあ・ぷれす』は8年前にスタートしましたが、内容がずいぶん変
化しています。それは、鈴木さんがおっしゃるような変化と同時並行的に
起こっていることのように思います。これからも時代の空気を嗅ぎながら
必然的に変化していくのだということを、鈴木さんのお話を伺いながらあ
らためて感じました。それは私たちだけが変わるのではなく、社会全体が
一緒に変わっていくのですから、とても楽しみです。
今後ともよろしくお願いいたしますね。(了)

≪発行人 宮崎郁子よりコメント≫
鈴木さん、おもしろくて有意義なお話、ありがとうございました。
「在日地球人」っていいですね。どうも私はいつも自分自身を「国民」では
ないなと思っていたので、何だかスッキリしました。「国民的関心事」や
「国民的人気」とかいうものに、どうも全然関心がないのだけれど、自分を
育んだ日本列島の自然や文化や歴史や言語にはとても関心がある。そういう
環境に育った事実には誇りがあるし、自分の重要なアイデンティティだけど、
どうも「国民」というものにアイデンティティを感じないと思っていました。
私は「非国民」だと自分自身を規定していて、人にも言ったりしています。
これからは「在日地球人」って言おうかな。これからも「在日地球人」同士
いろいろ協力していけたらいいですね。