2000.11.15発行 vol.63(号外)
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■特集企画■
あなたのキャリアが周囲に大きな恩恵をもたらす。そんな生き方もあります。
大沢真知子(日本女子大学人間社会学部教授)
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■大沢真知子先生より寄せられたエッセイのご紹介
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日本女子大学の大沢真知子先生より、“こういう生き方もあるという参考例
として、ラオスの絹織物の復興に尽くした女性を「きゃりあ・ぷれす」読者
にぜひ紹介したい”とエッセイをお寄せいただきました。ここに掲載させて
いただきます。
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あなたのキャリアが周囲に大きな恩恵をもたらす。そんな生き方もあります。
大沢真知子(日本女子大学人間社会学部教授)
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さて今回は編集部の方に、この機会にキャロル・キャシディ(Carol Cassidy)
さんについても書かせて欲しいと、わがままを言って許可をいただきました。
彼女はわたしが夏にラオスに行ったときに会ったアメリカ人の女性で、彼女
の専門は絹織物のデザインとそれを実際に織ること。ラオスでいま、ラーオ
・テキスタイルという会社を経営しています。
何で彼女のことを書きたくなったのかというと、彼女の生き方や考え方に共
鳴し、また、こんな生き方があったのかと感銘を受けたからです。ちなみに
彼女は91年のアエラでも「いまもっとも新しい女性」として取り上げられて
いるのでご存じのかたもいらっしゃるかもしれませんね。
たとえば発展途上国を旅すると、日本にないもの(人と人との濃厚な結びつ
きなどややさしさ)に心が暖まったり安まると同時に、圧倒的な富の差にも
目を向けないわけにはいきませんよね。
今回のラオスの旅では、自分が当然だとおもって受け取ってきたもの(とく
に教育ですが)が地球上の多くのひとにとっては高嶺の花であることに気づ
きました。たとえばラオスではひとびとの平均所得は月約2000円。子供は平
均5人。高等学校にはいれるのが8人に1人。子供を大学にやるなんて夢の
また夢なのです。こういった特権に対しては義務もともなうのではないか。
教育を自分の将来のためにいかすことも大切だけれど、それだけではなくて、
自分のもっているものを使って他人の生活もよくすることができる。それを
実行しているのがキャロルだったのです。
キャロルは、フィンランドで織物を学んだ後、ミシガン大学で政治学と女性
学を専攻、卒業後国連の仕事でエチオピアに渡り、現地の女性たちに織物の
技能を伝授します。これによって男性優位のアフリカ社会のなかで女性が経
済力をえることができるようになったのです。その後、ラオスにわたり、当
時ベトナム戦争で国が疲弊し、衰退しかけていた伝統的な絹織物を復活させ
るために社会主義の国のなかで唯一の民営企業として「ラーオ・テキスタイ
ル」という会社を設立し、それをビジネスとして成功させました。
会社の設立が91年。95〜96年までは利益なし。農村に入って糸を紡ぐところ
から指導して、現在は220の農家が彼女のために糸を紡いでいるといいます。
さらに、50人の熟練した機織師が彼女の工房で常時機織りの仕事に専念して
います。
最近は国連のボランティアとして途上国で活躍する日本人もふえています。
インターネット上でどの途上国でどのようなひとを求めているのかをみるこ
ともできるのだそうです。自分のキャリアを積むことが、他人にも大きな恩
恵をもたらすなんていいですよね。
キャロルに比べるとわたしはいままでの人生で何をやってきたのだろうかと
自分を恥じました。でも、彼女のことを紹介するだけでも、何かの貢献にな
るかもしれないとおもって、この場を借りて書かせていただいたのです。ラ
オスでは10万円で小学校が建つのだと聞きました(一桁間違っているのでは
ないかと不安なのですが)。目を世界に広げれば、日本人のわたしたちが出
来ることがたくさんあるのだと今回の旅行で感じました。一度しかない人生、
いろいろな経験をして、大きく生きたいですよね。ちなみに今回はおもにラ
オスのルワンパバーンというユネスコから世界遺産都市に指定された町に滞
在しました。機会があったら是非みなさんもラオスに行ってみてください。