2000.7.5発行 vol.53
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■特集企画■
<大沢真知子先生をお訪ねして>
〜個人個人の考え方だけの問題に終わらせないために〜
■大沢先生訪問記
■大沢先生からのメッセージ
「これから求められる、しあわせな生き方・働き方を選べる社会」
・選択に迷ったら、人生においての優先順位を考える
・仕事中心の価値観を捨て、しあわせに生きる
・どんな就業形態でもメリットをもたらす方法は?
・最後にひとこと
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「きゃりあ・ぷれす」25号(1999年5月発行)の「編集部のおすすめ本」の
特集でご紹介した『新しい家族のための経済学』(中公新書)という本を覚
えていらっしゃるでしょうか。
女性の能力活用が今後の日本社会にとっていかに有益か、男性を含めて、よ
り自立的で柔軟な働き方が家族や個人にとってプラスになるような仕組みが
いかに必要であるかを解き明かした、大変明快な本です。
この著書の特に素晴らしいところは、今の働き方を良しとして、女性が男性
と同じ権利を勝ちとることを目標とするのではなく、男性も女性もより心豊
かで充実した人生をすごすために、行きづまりを見せている今の仕組みをど
う変えていくべきかを提案しているところだと思います。
「きゃりあ・ぷれす」では、最近連載した「働くことの意味」の特集企画だ
けでなく、個人個人が考え方を変えていくこと、あるいは自分自身で本当に
自分らしい働き方や生き方は何かを常に問うていくことを提案してきました。
そのことは、より充実した人生を送っていくうえで大切な第一歩であること
は間違いないと思います。けれども、個人個人の考え方だけの問題では、解
決できないことも多々あります。社会の仕組みの不整合があるからです。
長年の間に構築された社会の仕組みは一朝一夕に変えられるわけではありま
せん。しかし、従来の仕組みが破たんをきたしていることが明らかになった
今こそ、それに変わる提案が必要であり、社会をより良く変えていくチャン
スだと考えています。
こうした認識のもとで「きゃりあ・ぷれす」ができることがあるとすれば、
科学的なアプローチによって、これまでのシステムの問題点を明らかにし、
オルタナティブ(それに替わりうる代替案)を追究し、社会に示そうという
スタンスをもつ研究者の方と微力ながらも協力していくことではないかと考
えます。
そうした考えのもとで「きゃりあ・ぷれす」編集部では、『新しい家族のた
めの経済学』の著者・大沢真知子先生にぜひ1度お会いしてお話を伺いたい
とかねがね願っていました。幸いなことに、先日それがかないましたので、
今号ではそのことをご報告したいと思います。
◆大沢真知子(おおさわまちこ)先生プロフィール−−−−−−−−−−−
1975年、成蹊大学文学部卒業。80年、南イリノイ大学博士課程修了。84年、
Ph.D.(経済学博士)。シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学
ディアボーン校助教授、日本労働研究機構研究員、亜細亜大学助教授を経て、
現在、日本女子大学人間社会学部教授。主な著書に『経済変化と女子労働』
(日本経済評論社、1993年)『労働経済論』(共著、八千代出版、1997年)、
近著では今年3月発行の『働き方を変えて、暮らしを変えよう』(共著、東
京女性財団)がある。
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■大沢先生訪問記
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6月上旬、梅雨入り前のおだやかな昼下がりに、私たち「きゃりあ・ぷれす」
編集部の3名は大沢先生のご自宅をお訪ねしました。先生は大変気さくな方
で、心なごます調度がさりげなく配置された居間で、私たちの話に耳をかた
むけてくださり、楽しい会話は2時間近く続きました。
その中で特に印象に残ったのは、これから大切になることとして、従来の国
や会社に目標設定してもらう人まかせ、あるいは自己犠牲の働き方から、個
人が自己実現するための働き方への意識改革、そして職種や仕事内容、ワー
キングスタイルを主体的に選びとれる社会の仕組みづくりがあるというお話
でした。
また、最近の大学生は親のリストラや雇用状況の激変に直面し、ずいぶん意
識が変化しているということです。固定概念にとらわれず、自分の将来設計
を自由に考えられるようになっている一方で、「能力主義」社会へのプレッ
シャーも感じているようだということでした。
「きゃりあ・ぷれす」の考え方や読者の方々からのメールにも大変興味を持
っていただき、ブレーンになっていただけることになりました。
また、先生のご研究を、「きゃりあ・ぷれす」も微力ながらお手伝いできれ
ばと考えています。たとえばアンケート調査やヒアリングなどで皆様へのご
協力をお願いすることもあるかと思います。その際はぜひよろしくお願いい
たします。
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■大沢先生からのメッセージ
「これから求められる、しあわせな生き方・働き方を選べる社会」
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はじめまして。大沢です。
1ヶ月ほど前でしょうか。このメールマガジンを編集されている宮崎郁子さ
んから素敵なお手紙をいただきました。拙著『新しい家族のための経済学』
を読み、気に入ってくださったというのです。この本はわたしが本当に書き
たかった本であり、わたしの分身でもあるので、ほめられて大変うれしくお
もいました。
みなさんへのメッセージを、ということなのですが、自己紹介もかねて今日
はわたしが最近考えていることを書いてみたいとおもいます。
●選択に迷ったら、人生においての優先順位を考える
わたしの学科の大学院生のひとりが働きざかりのガン死について修士論文を
書きました。そのなかにとても印象に残った記述がありました。この論文は、
いままでの努力が実ってまさにこれからというときにガンに冒されているこ
とがわかったひとびとがその事実をどう受け入れ最期をすごしたのかを、残
された手記から考察したものなのですが、そのなかで多くのひとが、ガンに
冒される前よりもいまのほうがしあわせだと生前に書いているというのです。
そして、もしやり直せるならば、違った生き方を選択していると答えている
のです。
手記が出版され広く読まれていることからもわかるように、筆者はみな著名
なひとであり、社会的な評価を受けてきたひとです。これはわたしの勝手な
想像ですが、これらのひとびとは死を前にして、自分の人生における優先順
位が間違っていたことに気付いたのではないかとおもうのです。
それ以来選択に迷ったときに、もし明日死ぬとしたらどちらが大切か、原稿
書きを選ぶかそれとも旅行することを選ぶかと考え、原稿の締め切りがます
ます守れなくなりました。きのうはこのメッセージを書くか、おいしいワイ
ンを飲むかで迷い、ワインのほうを選択してしまったのでやっぱり締め切り
に遅れてしまいました。編集スタッフの方、ごめんなさい。
●仕事中心の価値観を捨て、しあわせに生きる
さて、拙著『新しい家族のための経済学』では、こうやって個人が人生を楽
しむことと仕事との調和をはかれる社会にするためにどうしたらいいのかを、
経済学という分析の道具を使って書いたものです。
仕事中心・大企業中心の日本的競争社会が、なぜ高度成長期に合理性をもっ
たのかを分析したのは、読者に、それがいま合理性を失っていることに気づ
いて欲しかったからです。
そして、わたしたちが新しい社会でしあわせに生きられるためには、この価
値観(仕事中心の)からいかに自分自身を解放させることができるのかにか
かっているようにおもったのです。
でも同時に、わたしたちがなかなか解放されないのは、システムそのものが
古い価値観を温存するような働きをしているからです。その仕組みを変える
ことが大切なのだと書きました。
多様な価値観を認める社会があるためにはまず多様な選択肢が用意されてい
る社会がなければならないにもかかわらず、あいかわらず仕事中心に生きる
ひとが高く評価される社会になっています。個人が主体の社会といわれなが
ら、個人が主体的に生きる道があまり用意されてはいないのです。
とくに気になるのが、いまふえてきている派遣という働き方や雇用契約の短
い労働者の増加です。こういった就業形態の増加は企業だけでなく働く側に
もメリットをもたらすはずなのに、日本にはそれを選択したひとがより悪い
労働条件で働かなければならない状況があります。そしてそれが、時代遅れ
になった正社員の雇用を支えるという悪循環になっているのです。
●どんな就業形態でもメリットをもたらす方法は?
ただ、正社員の労働市場も変化しており、これからは大きく変わる可能性が
あります。そのときに、どういう就業形態を選んでも損をしない労働市場を
確立しておく必要があるという問題意識から最近書いたのが、『働き方を変
えて、暮らし方を変えよう』という本です。(共著)
現在は、派遣などの非正社員の増加が企業にのみメリットをもたらすような
仕組みになっているのですが、これをわたしたち働く側にもメリットをもた
らす仕組みに直すためにどうしたらいいのか、それを実現しているオランダ
の例についてもふれました。
みなさんにもぜひ読んでいただき、感想をお聞きしたいとおもいます。
ご参考までに目次をご紹介します。
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はじめに
第1章 派遣・パート労働者の増加とその背景
第2章 変化するアメリカの労働市場
─女性の雇用と労働者派遣を中心とする動向
第3章 オランダのワークシェアリングとパートタイム革命
第4章 座談会 派遣という働き方から見えてくるもの
第5章 最近の女性のライフサイクルの変化と就業
第6章 座談会 まとめに代えて
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※ご希望の方には1050円でお分けできるのですが、郵送料が310円かかるの
で全部で1360円になるとのことです。
問い合わせは、ミズ・クレヨンハウス(03-3406-6465)までお願いします。
●最後にひとこと
日本の社会は受験などをつうじて早くから勝ち組と負け組に分かれてしまう
ために、わたしたちは子供たちを勝ち組にいれようとつい頑張ってしまいま
すが、本当の勝ち組とは、人生を楽しむ才能をもつこと。それが実現できる
国こそがいま求められているのだとおもいます。
これからもどうぞよろしく。
(大沢真知子)